第94回入学式 校長挨拶(震災について挨拶全文)

入学おめでとう。
校長の飯村です。

こうしてデザインをやりたいという学生達が集い、
また、それを祝福してくれるプロの講師の先生方と共に
入学式を執り行える事を嬉しく思っております。
保護者の皆様におかれましても、
こうして爽やかに入学式が迎えられる事に、ほっと一息されている事と存じます。

本校はデザインの学校です。
ものづくりの学校です。

今、入学式でいきなり、イニシャルフラッグをつくることになり、
びっくりされた方もいるかと思います。
新入生の皆さんのデザインをやりたいという気持ちをひとつにして、
大きなフラッグとして掲揚しました。
これが文化流なのですが、どうでしょう。
ひとりひとりの仕事が大きなフラッグになりました。
このフラッグをみなさんの入学の宣言と致します。

新入生の皆さんに、今日私が希望する事は、
生活を支えるデザインをして貰いたいということ。
生活を支えている、それがデザインです。

未曾有の災害に日本が見舞われてます。
現在進行形であり、復興にはまだまだ時間がかかるでしょう。
皆さんも地震を体感したと思います。
多くの建物が崩壊しました。
その後には津波が襲ってきました。
私も大洗に住んでいますので、目の前まで津波がきていました。
大洗も家が4件流されましたが、映像で見たでしょうか。
宮城や岩手では、町ごと全てが流され、何も残ってない。
高台から、自分の住んでいた家が激流に飲まれ、流されていくのを
目の当たりにした人もたくさんいたでしょう。
それは、悲痛な叫びとともに、コンピュータグラフィックスの映画を見ているような
信じがたい光景。
みなさんには衝撃的な映像かもしれませんが、目を背けないで頂きたい。

我々の仕事は何でしょうか。
皆さんの3年後の仕事はどんな仕事でしょうか。

学校も被害を受けました。
そんな時、真っ先に来てくれたのは、卒業生。
頼りになるし、頼もしく思います。
リリー文化学園全体の修復を請け負ってくれています。
彼の卒業した学科が「建築の学科」です。

流されてしまった自分の家。
まっさらにフラットになった土地だけが残る。
そこに途方にくれている人がいる。
それを元に戻せる職業があります。
そこに、生活の空間を作ってあげられるのが、
建築インテリア学科に入った皆さんです。
凄い職業です。
人の為に、生活を土台から支えている職業だと思います。

生活には様々な物が必要になる。
地震で食器が壊れてしまった。
家具が壊れてしまった。
常陸太田にある雑貨屋さんでは、
地震から3日間ぐらいは店主自身も体育館で避難生活を送りながら、
それでも様々な問い合わせにモバイル端末で応えていました。
ネット上にお客さんがたくさんいる。
自分の店では扱ってない、オムツや粉ミルクの情報まで提供している。
水の情報や配給の情報を、お客さんの為に親切に情報発信していました。

ショップコーディネート学科の皆さん、
君たちが目指すのはそんな仕事です。
店が開店できなくても、皆の心の支えになっているお店。
その常陸太田にある小さな雑貨屋さんは、
3月29日から開店しました。
お客さんから沢山の花束が届いたそうです。
小さなお店ですが、震災の後も沢山の人が訪れています。

閉まっていても心の支えであり、
空いてるとほっとするお店。
素晴らしい店だと思います。

さて、茨城の農業なども大きな痛手を負いました。
最初の出荷停止命令で、「茨城」という名前が出てしまった。
ましてや、関東全域の野菜の値段が落ちている。
アメリカでは日本の野菜が敬遠されている。
さらに、今後、海産物への影響も出てくる。
少なくとも、ここ1、2年間は農業、漁業に大きな影響が出るでしょう。 その影響は、福島原発の事故が収束した後も続くかもしれません。

広告プロモーションデザイン学科では昨年、
2年生が常陸太田市の青い巨峰のぶどう、
「常陸青龍」に関わるデザインをしました。
常陸太田市にしかない品種です。
大きなぶどうをみんなで食べさせて頂きました。
そして皆でポスターやパッケージをデザインしました。
常陸太田市の農協会館で行われたプレゼンテーションには、
常陸太田市ぶどう組合、市長他、50名近い方がデザインを見に来てくれました。

学生は頑張って、自分のイメージをぶつけました。 次に読み上げるのは学生プレゼンの抜粋です。

抜けるような青空の下で、
常陸太田の斜面に鈴なりに、青い透き通った大きなぶどう。
一粒ひとつぶ気持を込めて作ったから、
甘いぶどうができました。

素晴らしいプレゼンテーションでした。
広告プロモーションデザイン学科を希望された皆さん。
皆さんは多くの人にイメージを伝える事ができます。
これから続く農業や漁業の悪いイメージを変えるという、
大切な使命を担っています。

今、みなさんの大きな使命を発表しました。
3年後の大事な仕事。
今日デザインしてもらった小さな第一歩から、
大きな仕事を成し遂げる。
そうした皆さんの姿が、私にはすでに見えています。
そして、ここは専門学校です。
社会に貢献する仕事を学ぶ場所です。
ですから、まずは社会に貢献するという考え方、
もっと噛み砕いて言えば、相手の気持を考える事。
それを大事にして下さい。

大洗では、水道がなかなか復旧しませんでした。
一番助かったのは、近所のおばちゃんの井戸水です。
手押しの井戸でした。
おばちゃんに「自分で押すから」と言うと、
「いいよ、いいよ」と言っておばちゃんが押してくれる。
次の日も、次の日もおばちゃんが井戸の脇に立ってる。
また、「いいよ、いいよ」と言って、おばちゃんが押してくれる。

その光景が目に焼きついています。
人の事を考えて、自分のできる事をやる。
それは「おもいやり」という言葉なのかもしれません。
それが体に染み込んでいる。
そういう人に、私もなりたい。
そう思いました。

ここに掲げてあるスローガン「幸せの魔法は、おもいやり」は、
茨城を復興しようというリリー文化学園全体のものです。
この後学園長先生より説明があるかと思いますが、
デザインの魔法も「おもいやり」。
皆さんは3年間で、この「おもいやり」を体に染み込ませて下さい。
「おもいやり」が体に染み込んだ時、
大きな仕事、社会に貢献する仕事ができるのだと思います。

以上を皆さんへのメッセージ、校長の式辞とします。
入学おめでとう。

学校法人リリー文化学園
専門学校 文化デザイナー学院
校長 飯村雅史
2011年4月8日入学式にて(三の丸ホテル)